2023/10/24
・猫ウイルス性鼻気管炎の症状と診断
・ヘルペスウイルスの再活性化と潜伏感染
・治療方法
・予防と予後
猫伝染性(ウイルス性)鼻気管炎は、軽度なものから比較的重度のものまで多く見られますが、「猫風邪」というのは疾患の正式名称ではなく、風邪のような症状を引き起こす病気全般を指す言葉です。この猫風邪の原因にはヘルペスウイルスを原因とする猫伝染性鼻気管炎のみならず、猫カリシウイルス感染症やクラミジア、細菌など様々な疾患が関与します。
今回はこの原因の主たる疾患である猫ウイルス性鼻気管炎について記述します。
猫ウイルス性鼻気管炎の症状と診断
症状
初期には沈うつ、くしゃみ、食欲不振、発熱、眼および鼻からの分泌物、流涎(よだれ)があります。しばしば充血と浮腫を伴う結膜炎が認められ、潰瘍性角膜炎やぶどう膜炎に至るケースもあります。分泌物は次第に粘液膿性(ドロドロの状態)となり、鼻腔や眼瞼を塞いでしまうことがあります。重度の症例では呼吸困難や発咳が認めらます。
診断
臨床症状から推測されることが多く、くしゃみ、より重度の呼吸器症状、結膜炎が認められればヘルペスウイルスの感染を考慮します。確定診断にはウイルス分離、ウイルス核酸の検出、血清学的診断法が用いられます。口腔、鼻腔、結膜拭い液よりウイルスが分離されれば原因であると判断できます。一方で、現実的にはそれらの診断を初期にするメリットがあまり多く無いため、診断的治療から入ることが多いです。治療反応が良くない場合や肺炎など重篤な状態である場合は、確定診断を待ちつつの治療となります。
ヘルペスウイルスの再活性化と潜伏感染
この疾患の厄介な点としては、完治が難しく、ウイルスが神経細胞などに潜伏する恐れがあることです。
発症から回復した猫においても潜在的にウイルスを保有しており、キャリアとなります。 ウイルスの再活性化は自然に起こることもありますが、猫が何らかのストレスを受けた場合に起こることが多く、工事や引っ越し、来客、同居猫が増えるなどのイベントがきっかけとなることもあります。また、ステロイドなどの免疫抑制剤の投与によっても再活性化することがあります。
治療方法
比較的症状が重い場合は全身的な抗ウイルス薬の投与が行われることがあります。これまでの報告では抗ウイルス薬、ヒトインターフェロン(IFN)-α、IFN- ω、L-リジンの投与が有効であるといわれています。
また支持療法として栄養補助が必要となります。また脱水が認められる場合には輸液を行います。ステロイド薬の投与はウイルスを活性化させてしまうため用いません。その他食欲不振に対処したり、二次感染予防のための広域スペクトラムの抗菌薬も有効です。鼻や眼からの分泌物をキレイに除去したり、局所的に点眼・点鼻を行うこともあります。
予防と予後
発症予防としては猫の混合ワクチンが有効です。しかしながらこのワクチンは感染予防のワクチンでは無いため、潜伏感染の恐れがある場合は長期的に予防していく必要があります。また予後としては、症状が軽度であれば数日〜数週間で改善することが多く、季節の変わり目や工事などの発症要因が去れば快方に向かうことが多いです。ただ、上述のように潜伏感染するウイルスではありますので、生涯管理していくことが必要になります。
※参考文献:猫の治療ガイド2020. 2020,8,1.p203-205